東京 会議室の独自色

日本経済の長期低落傾向に歯止めをかけるためには、国内「滞在人口」をさまざまな手法を駆使して着実に増やす官民の努力とともに、日本人の伝統的なよさを壊さない工夫が必要になってくる。
筆者はそのように考えている。 辞書を引くと、「依存(いそん、いぞん)」とは、「他のものによりかかって成り立ち、あるいは生きること」とある。

依存の反対語は「自立」「自主」「独立」。 英語の場合、ヨという否定の接頭が付くため、両者が対置される概念だということが日本語よりもわかりやすくなっている。
さらに、医学上の用語として、「依存症」がある。 アルコールやニコチン、ギャンブル、恋愛行動など、何か特定の物質や行動がなくなると禁断症状を起こすほど、身体的あるいは精神的に依存度合いが高まった病的な状態のことだ。
この依存症は、昔から「○○中毒」と呼ばれることが少なくない。 日本経済をさまざまな角度から分析する際に、それがいったい何に「依存」しているのかを考えてみる視点は非常に重要である。
なぜなら、一つには、そうした思考を進める過程の中から、いまの日本経済が抱える問題は何なのかという点が浮き彫りになるからだ。 同時に、危機的な世界経済の中で将来の日本経済をよりよくするには何が必要なのかを考えるためのヒントが、自ずと浮かび上がってくる。
日本経済に、よくない意味での「依存」、ことによると「依存症」とでも呼ぶべき部分があるならば、政策的な対応を含めた一種の「治療」が必要になる。 ただし、それが集中治療室でのオペのような迅速な対応を必要とするものなのか、それとも漢方薬を用いた体質改善のような、無理のない形での息の長い治療が適しているのかは、多くの場合、意見が分かれるであろうし、最終的には選挙を通じて下される国民の判断次第ということにな本書は、日本経済について、「経済」という言葉を狭義ではなく、教育や食料自給といった問題も含む広義でとらえている。
その上で、さまざまな「依存」が観察される日本経済の今後を読者の皆さんに真剣に考えていただくための叩き台として、いわば「生きた素材」を多様な角度から提供しようとするところに、最大の狙いがある。 経済について、多角的、重層的に現状を直視してから今後について問題意識や危機意識を持つのは、非常に重要なことだ。
ただし、一般の読者が少々難しいと感じるようなマクロ経済統計ばかりを並べて説明するのではなく、身近な事例や各種アンケート調査などを交えながら、できるだけ平易に解説するよう心掛けたつもりである。 本文中には、全部で川のテーマを設定している。
グループ分けすると、1第1-2章で経済全般(国内需要の柱である個人消費の「女性依存」、小遣い減少に苦しむお父さんと「交際費依存」、輸出主導の景気が常態化する中での「米国依存」)、2第3〜5章で産業構造と規制(「建設業依存」の地方経済が直面している厳しい構造調整、ある規制緩和)、3第6〜7章で教育・マスコミ(ゆとり教育の弊害と「学習塾依存」、景気認識や買い物における「マスコミ依存」)、4第8〜9章でマネーとマーケット(家計金融資産の「預金依存」、東京マーケットの「外国人依存」)を、それぞれ取り上げている。 そして、最後の第2章では、人口減少・少子高齢化という点で日本全体の「3年先」を走っている秋田県の現状を、一種のケーススタディーとして取り上げている。

日本の未来図はどのようなものになりつつあるのか、いま本当に必要なことは何なのかを、秋田の事例を教師、あるいは反面教師にしながら、考察してみたい。 それではさっそく、個別テーマごとの説明に入っていくことにしよう。
もう19年くらい前のことになるが、ある生命保険会社の依頼で、東南アジア諸国の生命保険会社から来た研修生およそ別人に対し、「日本経済の行方」をテーマに1時間ほどレクチャーしたことがある。 皆さん緊張の面持ちなので、最初に「日本のデパートに行きましたか〜」と問いかけてみた。
研修生はほとんどが男性。 きょとんとしているので、「1階は化粧品と高級ブランド、2階は婦人服、3階も婦人服、4階も婦人服、5階まで上がってやっと紳士服売り場があるのが、日本のデパートです」と言ったら、一同大爆笑となった。
「俺の国でもそうだよ」と言ってうなずいている顔も複数あり、どうやら、消費の「女性主導」は日本だけのことではないらしい。 それにしても、日本の個人消費はこのところ、変調ぶりが著しい。
大きな原因は、賃金の伸び悩み(あるいはボーナスの減少)に加えて、原油高・食品高という「悪い物価上昇」が加速したことにある。 ガソリンや各種食品の値上げが相次ぎ、いわば、生活必需品についてのみ消費税率が割り増し適用されたのと同じような負担増を強いられて、消費者の姿勢は生活防衛色を強めている。
内閣府が発表した2008年8月の消費動向調査で、一般世帯の消費者態度指数は25.に低下し、過去最低水準を3ヵ月連続で更新した。 それまでの最低水準は、現在のように月次ではなく4半期ごとに調査が行われていた3年旧月調査で記録した77・0。
消費マインドの落ち込みが、今回はいかにきついものになっているかがわかる。 その後、ガソリン価格が下落したことが好感されて、20年9月調査で消費者態度指数は19・4に上昇したが、7月には世界的な金融危機と株価急落が嫌気されて38・4に低下し、過去最低水準をまたも更新してしまった。
内訳を見ると、消費者態度指数を算出するもとになっている「収入の増え方」「雇用環境」「墓らし向き」「耐久消費財の買い時判断」の4項目は、いずれも大幅に悪化している。 また、1年後の物価に関する見通しでは、「上昇する」と回答した一般世帯の割合が、2008年3月時点でもなお19・4%に達しており、「悪い物価上昇」がマインドを悪化させてきたことが浮かび上がる。
消費マインドの大幅な悪化とその理由は、日銀が4半期ごとに発表している「生活意識に関するアンケート調査」(2008〜9月)の結果からもわかる。 この調査では、1年前と比べた物価に対する実感として、9割を超える人が「少し上がった」あるいは「かなり上がった」と回答している。

「1年前に比べて現在の物価が何%程度変化したと思うか」との問いに対する回答の中央値は+18・0%で、前回6月調査の結果と同じだが、3月調査時の+5.0%からは倍増している。 この間、支出については、1年前と比べて「増えた」という回答が88・8%に増加。
「減った」は38・5%にとどまった。 1年後の支出については、「減らす」という回答が開・6%に増加。
「増やす」はわずか3.7%にとどまった。 明らかに、「悪い物価上昇」によって家計は苦境に立たされ、引き締め志向を強めている。
同じ日銀調査で、現在の景況感DI(現在を1年前と比べた回答比率の「景気が良くなった」、「景気が悪くなった」)を見ると、▲88・4に落ち込んでいる(前回調査比18.上は、景気の「方向」に関するDIであるが、現在の景気の「水準」に関するDIを調査内容から試算すると、▲35・7(前回調査比より9.2ポイント低下)という、とんでもなく低い数字になる。


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